2014年01月26日

ダニーと紺碧の海

 札幌座「ダニーと紺碧の海」(脚本ジョン・パトリック・シャンリィ、翻訳鈴木小百合、演出橋口幸絵)を1月26日(日)、札幌・シアターZOOで見た。
 ニューヨーク州ブロンクス。繊細ゆえに野獣のような激しさで周囲と理解し合えないダニー(彦素由彦)と、過去の罪を背負って心を閉ざしたロバータ(榮田佳子)。バーで知り合った孤独な二人が、心の澱を吐き出し、激しくもぎこちなくぶつかり合いながら、結婚の約束をするまでの不器用な愛の物語。
 A、B2チームのうち、きょう見たのはBチーム(Aは谷口健太郎、山本菜穂)。上演時間、たしか80分があっという間。
 橋口が代表の劇団千年王國が2010年に上演した(当ブログ2010年12月4日)。その時は、29歳、独身、喧嘩っ早い、寂しがりやのダニーは赤沼政文、18歳で子どもができて結婚、離婚、人には言えない深い悩みありの31歳のロバータは坂本祐以(今回、橋口の懐妊に伴い=元気な男児を出産。おめでとうございます=演出助手を務めている)。その当時、僕は赤沼、坂本コンビは若さで力業で物語を持っていった感じがしたのだが、それはワインに例えればミディアムボディだったように、いまは思う。きょう見た彦素、榮田はそれより濃く重いフルボディの味わい。もちろん、それぞれに良い。
 ダニーとロバータはよく似ている。彼、彼女の中に、互いに自分を見たのではないか? 合わせ鏡? たった一晩の永遠?
 自らは抗いがたい、どうしようもない、生きることそのものからくる痛み、渇望、物狂おしいほどの再生への願い。速射砲のような台詞の応酬からだけではなく、そうしたものが、ひりひり、じりじりと皮膚感覚で伝わってくる。見ている僕も、痛くなる、切なくなる、狂おしくなる。これはなんだろう、なんだか覚えがあるなと頭を巡らせたら、中上健次の小説を読み終えた後の思いに似ている。喝采。快哉。
 それに、すてきな本作を見て、やっぱりきょうも思い出した。劇団北芸(釧路)の「この道はいつか来た道」(作別役実、演出加藤直樹)。去年5月のシアターZOO公演で「さようなら」の解散で、願ってももう見られないとわかってはいるのだけれども。
 谷口、菜穂コンビも楽しみだ。両チームとも、怪我だけはしないように気をつけて。
「札幌演劇シーズン2014冬」の作品、劇団、日程などの詳細はホームページ http://s-e-season.com/ をご覧ください。
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2014年01月22日

化粧

 こまつ座「化粧」(作井上ひさし=1982年初演、演出鵜山仁=文学座)を1月21日(火)、北広島市芸術文化ホールで見た。帯広市出身で、杉村春子に文学座の後継看板女優を託されたという平淑恵の一人芝居。よっ! やってくれましたねっ!
 なにより僕はこの芝居を生で見ることが30年来の宿願だった。それがかない幸せ。芝居の出来にも満足。北広島と僕の住む札幌・円山って意外と近い(会社からJR札幌駅−北広島と行って、帰りはJRで新札幌経由、地下鉄東西線で帰ってきた。自宅からなら地下鉄経由の方が100円ほど安い)。一幕(40分)、二幕(30分)合わせてわずか70分(途中休憩なし)の、でも至高の一人芝居に胸打たれ、幸せな一日だった。
 さびれた芝居小屋の淋しい楽屋。その楽屋に遠くから客入れの演歌が流れ込んでくるやいなや、大衆演劇女座長、五月洋子(平淑恵)は、座員一同に檄を飛ばし始める。開演前の化粧支度の最中も、口上や十八番の出し物、母もの芝居「伊三郎別れ旅」の稽古に余念がない。その慌ただしい楽屋に、洋子をたずねて来る者が居た。それは、彼女が泣く泣く昔捨てたはずの一人息子と名乗る人物であった。息子との再会話と出し物「伊三郎別れ旅」の話が重なりあって……。
 僕がこの、井上ひさしが初めて書いたという一人芝居をNHK総合テレビで見たのは、82年初演の演出木村光一、出演渡辺美佐子(82〜2010年に648公演)の地人会公演だ。計算すると、釧路湖陵高3年の時か(代々木ゼミナール札幌校の学生寮にいた時は1年間、テレビを一切見なかったので、もしかしたら84年に大学に入学してからかもしれない。テレビを一切見なかったのは本当で=僕にも誓って出来ることがあったと後で我ながら感心した=、NHK朝ドラ「おしん」とか、山田太一「ふぞろいの林檎たち」とか、サントリーのペンギンちゃんの松田聖子の歌のCMはダイレクトに見ていない)。でも、その時の「化粧」はまだ一幕だけだった気がする。きのう劇場で買ったパンフレットで井上は「僕はもう一度、お客様の想像力を挑発し、それに挑戦するために、二幕目をつけ加えることにしました。」(観客の想像力 82年12月、地人会「化粧 二幕」公演プログラムより)と書いており、初演のその年のうちにもう二幕目を書き加えて「完成」させたということになる。すごいな。
 とにかく、そのNHKの劇場中継で、僕はえらく感動した(当時、NHKはたまに総合テレビの19時半か20時から劇場中継をやっていた。もちろん録画だけれど、ゴールデンアワーに芝居だよ。つまり、編成が今よりもよっぽど斬新。その枠で僕は作・演出太田省吾、出演中村伸郎=小樽出身=の「棲家(すみか)」なども見た。きっと演劇病発病の大きな原因の一つだろう)。見せて見せて見せての驚きの展開、あるいはどんでん返し。感動のあまり、のちにNHK出版から出た「化粧」の戯曲を買って読んだ(もう絶版だと思う。「化粧」はいま「井上ひさし全芝居その三」所収・新潮社刊)。この戯曲本には二幕目もあったようで、そのことが、テレビでは一幕しか見ていないはずなのに、物語のすべてを知っているなどの僕の「化粧」体験の記憶を曖昧にしているのではないかな。
 観客席を「鏡」として舞台化粧していく女座長(清水邦夫「楽屋」のようにね。そう、本作と「楽屋」(女性四人芝居)は良いライバルだな)、実際には登場しない人物と女座長のやりとり、彼女に増していく狂気、劇中劇の見本のような入れ子舞台−観客の想像力=創造力をこそ信じる僕が大好きな劇作方法の演劇作品として、本作はまさに日本最高峰にあると思う。
 渡辺美佐子さんは体力の限界などから10年5月9日公演を最後に77歳で演じ納められたが、仕方なかっただろうなと思う。なにせ台詞の量からしてものすごい。沈黙しているという時間がない。それに劇中劇として数ある役を演じ分けるうえに、女座長として公演に向けた化粧を初めとした準備もする。上演時間70分は、実は280分かそれ以上にも相当するのではないか。ちなみに釧路のお袋は演劇鑑賞会で渡辺さんバージョンを見ており、それはそれでうらやましい。
 平もとても良い。平−鵜山タッグの初演は11年1月8日だが(なぜそこまで知っているかというと、友人に薦め、良かったと感想を頂いたから)、お二人ともこれこそはライフワークだろうと初めから決意されているのだろう。間合い、呼吸の程合いが絶妙だ。平は端正な女優に思えるが、男勝りの気っぷのいい役柄もなかなかのもの。というより、この五月洋子という役は端正で凛とした女優にしかできないであろう。これからが円熟のしどころだと思う。また数年後に見たいな。
 あす23日(木)は平の地元・帯広公演。チケットは発売間もなく売れ切れたようだ。帯広三条高の先輩同輩後輩も来て、きっとすごいだろうな。劇(「化粧」)とか劇中劇(「伊三郎別れ旅」)とかじゃなくって、本当におひねりが出されたりしてね。
 ちなみに25日(土)は19時から湧別町文化センターさざ波での公演。誰に頼まれたのでもなくて、これは見ていただきたいなと思います。
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2014年01月20日

言祝ぎ

 intro「言祝ぎ(ことほぎ)」(作・演出イトウワカナ)を1月19日(日)、札幌・コンカリーニョで見た。
 元日。実家に一人で暮らす長女・美香子(田中佐保子)のもとに、お正月を祝おうとバツイチの次女・愛子(菜摘)、ゲイの長男・英一(大高一郎)が訪ねて来る。20年前の元日、雑煮のもちを喉に詰まらせる事故で父親を亡くしてから、美香子は雑煮を作った自分を責め続け、新しい年を祝うことができないでいる。愛子は理想の家族をつくることを夢見ているが、会社の上司と不倫をしている。英一は恋人と養子縁組をして同じ名字を名乗り、家族になろうとしている。新しい年を祝いたくても祝えなかった三姉妹の再生の物語。
 初演は2012年3月、ドラマドクターに渡辺源四郎商店(青森)の畑澤聖悟さんを迎えて。上演中に、東日本大震災発生の14時46分が経過し、終演後、畑澤の提案で観客みんなで黙祷をしたのも記憶に新しい。
 設定は奇抜とも言えるが、力まない自然体の演出と語り口で、物語がすーっと自然に身の内に入ってくる。様々な葛藤があった末、英一が美香子に雑煮を作るよう持ちかける。人の再生はほんの小さなきっかけでよいのだなと思える、すてきないじらしいラストだ。
 劇場中央に2段高くなった正方形の白い舞台。観客席はそれを挟んで「こ」の字形。舞台中央に、これも正方形の区画があり(「札幌演劇シーズン2014冬」のチラシで言えば、ちょうど白枠部分)、その隙間から光が上方に差し込む。中央部分にビデオモニター画面(?)が仕込まれており、時折3人の心象風景を暗示するように、波模様だったりの映像が流れる。初演当初から、ワカナの頭にはあったのかもしれない。
 「札幌演劇シーズン2014冬」の作品、劇団、日程など詳細はホームページ(http://s-e-season.com/)をご覧ください。
 今回の4演目は濃淡はあれど、いずれも「生」と「死」をにじませる作品のように思う。とてもいいラインアップだ。
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2014年01月12日

必剣!花の影

 遅ればせながら、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
 今年も観劇初めは僕の誕生日。予想以上に素晴らしい芝居の贈り物を頂いた。
 劇団怪獣無法地帯「必剣!花の影」(作・演出棚田満)を1月12日(日)、札幌・シアターZOOで見た。
 平侍の三男、元四郎(三戸部大峰)は、茶屋の女「しの」(山崎亜莉紗)に出会い、ほのかな恋心を抱く。だが、普通の町娘に見えた「しの」は、実は仇討ちを果たさんとする武家の娘だったのだ。「しの」の健気さに打たれた元四郎とその友人たちは、助太刀を買って出る。やっとの思いで目指す敵を見つけた元四郎たちだが、そこには「しの」も知らなかった重大な秘密が隠されていた。ただ目の前の敵を討つだけでは「しの」の無念は晴らせない…! それを悟った元四郎は、「しの」を守る為、封印していた「秘剣 花の影」を使うことを決意する。出演はほかに長流三平、伊藤しょうこ、梅津学、澤村和明ら総勢15人以上(役柄は40もあるとか)。
 棚田作品だから、特有のちょっとおバカな脱力系コメディー時代劇で新年に大笑いさせるのかと思ったら、まったくの見当違いだった。
 大まじめなのである。それが全編を貫き、いい感じなのである。新たな年の始まりに、見る者をしゃきっとさせるのである。まこと、新年の幕開けにふさわしい。
 なにより時代劇フリークという棚田の書いた脚本が良い。物語そのものもだが、それ以前に江戸時代の言葉、雰囲気を大切にしている。細部が丁寧で、一つ一つにこだわりがある。だから物語がしっかりと引き締まり、冒頭、「しの」の父(長流)が何者かに斬られる場面から緊迫感がある。棚田がだてに時代劇を見てきたわけではないことがわかる。数多く出る人間の複雑な関係や伏線の張り方も見事。言葉がしっかりしていて、場面場面のめりはりが利いているから、役者一人が何役やっていても気にならない。
 元四郎の侍としての心持ちにも共感できる。すぐに仕返す、人を殺すということをもとから嫌う、珍しい侍(僕は黒澤明監督の「用心棒」「椿三十郎」を思い出した)。それが、別の仇討ちを果たそうとした姉妹と助太刀した自分の友人が共にむなしいことになってしまって、その、人を殺すことへの嫌悪感を強くするというエピソードが実に効果的だ。物語に厚みが加わる。そうした元四郎をして、ついには剣を抜かざるを得ないところにまで追い詰められる−そこに説得力がある。
 「秘剣 花の影」とは何か? この演劇的仕掛けは他の作品でも見られるところだが、きょうの僕にはまったく予想がつかなかった。あの花、あの舞…見事に楽しませていただいた。ありがとうございました。
 楽日13日(月)は13・17時開演。時代劇ファンは必見。高倉健さんらの任侠もの映画が好きだった人にもお薦めする。そしてもちろん、すべての演劇ファンに。
posted by Kato at 21:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする