2013年02月28日

情熱

 NO LINE「情熱」(脚本青木吾朗、演出青木一平、青木吾朗)を2月28日(木)、札幌・サンピアザ劇場で見た。
 私は初見のカンパニー。結成から2年程度の第3回公演とのことだが、この初日は木曜初日の20時開演で満席。知らなかったけれどずいぶん人気があるんだなあと驚き、自分の不明さを恥じながら帰宅して調べたら、メンバーはほとんどが“ミスター”こと鈴井貴之さんのクリエイティブオフィス・キュー所属だった。それなら満席も納得だ。
 先に起きたアルジェリア人質拘束事件に材を得たのかどうかはわからないが、よく似た状況設定の芝居。自分の気持ちを表に出すのが苦手な高杉優作(戸澤亮)は妻陽子(田中温子)、息子心(白鳥雄介)に愛想を尽かされ、孤独。会社に首にされたのを機に、W・M・E(ワールド・ミュージック・エンジョイ)ツアーに参加する。搭乗機はザ・ビートルズの母国・英国に向かったはずが、気づくと密室の中におり、両手を後ろ手に拘束されている。密室にはほかに元ヤクザ黒崎(青木一平)、米国人マイヤー(能登屋駿介)、冷静な柴田透(青木吾朗)とりん(田中=2役)の兄妹、中国人ポー(竹原圭一)が拘束されていた。やがて、ビンラディンにも似た監視の男イブ(佐藤亮太)がやってくる−。
 パンフレットで、結成2年程度で第3回公演との情報は得ていたので、「若手のアマチュア劇団としてはみな堂々とした演技だなあ」と感心して見ていたが、キュー所属なら“プロ”だからこの程度は求められるだろう。それぞれのキャラクターも立っている。
 ただ作劇としては、途中さまざまな紆余曲折がある割には、終盤は駆け足の印象。息子心が父優作に思いをはせた末、ラストにテーマがぼろっと生身のまま台詞で表現されるのも、今後の劇作では一工夫ほしいところだ。全般にもう少しメリハリを利かせてもよかったかもしれない。年代の違う2役を演じ分けた田中には感心した。
 開演は3月1日(金)20時、2日(土)14・19時、3日(日)13・18時。残席わずかとのこと。
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2013年02月23日

楽屋

 劇団パーソンズ「楽屋」(作清水邦夫、演出畠山由貴)を2月23日(土)、札幌・ターミナルプラザことにパトスで見た。20代女性の軽やかな感性による演出ならではの“新味”が感じられた良い芝居だった。
 戯曲は“現代古典”ともいうべき、女優4人による名作中の名作芝居(ウィキペディア「清水邦夫」によると、累計上演回数が日本一の作品らしい=出典や根拠は不明)。私も大学で演劇を学んでいる現役学生の公演からプロのカンパニーによるものまで、ここ10年で5、6回は見ている。
 出演する女優4人に主役、脇役の別がなく(みんなが主役であり脇役)、チェーホフの「かもめ」や「三人姉妹」などを美味しいところ取りで劇中劇にしている素晴らしい作品だからこそ、「女優が4人いたら『楽屋』をやりたい」ということにもなるのだろう、きっと。
 すでに何人もの方がブログなどであらすじを詳細に書いているので、私も背景を含めて書くことにする(観劇前に知りたくない方は読まないでください)。
 とある古い劇場の楽屋。黙々と化粧台に向かって化粧をする2人の女優、古参のA(能登屋南奈)と若いB(岩杉夏)。実は2人は役をもらいたいがために棲みついた亡霊だ。いまこの楽屋を使い、「かもめ」にニーナ役で出演中の人気女優C(脇田唯)。そこへ枕を抱いてやって来る、どうやら心を病んでいるらしい女優兼プロンプターD(宮崎安津乃)。演劇を愛するがゆえの女優の業、虚栄と裏腹の輝き−。上演時間は70分ほど。
 畠山演出は今風の小技を利かせつつ小気味よい。4人もバランス良く、それぞれの役柄を生きている。
 ラストは「三人姉妹」の劇中劇で終わる名場面だが、かつて見たどの公演よりもあっさりしていたのには少々驚いた。私も脂っこすぎるのは好みではないが、もう少し“ぜい肉”というか“筋肉”があってもいいのではないかと思ったほどだ。
 だが、戯曲にある、冒頭とラストの暗闇の中で、「流れ去るものはやがてなつかしいものへ…」などと誰かの声だけが流される部分(詩のようなもの)がカットされて上演されたことなども考え合わせると、畠山はあまり重々しい芝居にしたくなかったのではないか、とも思えてくるのだ。
 そういえば、私が過去に見た「楽屋」はいずれもベテラン男性演劇人による演出。彼らが作品中であぶり出そう、刻印しようとした女優の情念的なものは、パーソンズ版にはあまり感じられなかった、良い意味でも悪い意味でもなく。
 ふと思い至ったのだが、「楽屋」の女性演出版を見たのは初めてなのだ。案外、私など年を取った男性演劇ファンが考えているほどには、いまの、特に若い女性演劇人には、情念的なものなど少なく、もっと軽やかに演劇を楽しんでいるのかもしれない。
 などというヘリクツはさておき、楽日24日(日)14時開演をお楽しみください。演劇好きなら一度は見ておくべき作品です。
 そしてこれが名作であるがゆえに心を奪われ、ベートーベンの交響曲第3番「英雄(エロイカ)」はカラヤン指揮で聴くべきか、フルトベングラーかバーンスタインか、などというめくるめく迷宮に陥り、「楽屋」が上演されるたびに劇場通いをするという「演劇病」に冒されるのです。
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命を弄ぶ男ふたり

 「じゃぱどら!! 激情編 唐さんと岸田さん」のイレブン☆ナイン「命を弄ぶ男ふたり」(作岸田國士=1925年、演出納谷真大)を2月23日(土)、札幌・シアターZOOで見た。
 同カンパニーによる初演の劇評を2012年3月9日に書いている。
 今回は研究者(化学者)を初演と同じく納谷、新劇の俳優を大川敬介が演じた。
 (新人なのだろうか)大川が端正な演技をするのに対し、納谷はオーバーアクション気味で、なんだかかえって新劇の役者が舞台で一生懸命演技している感じにも思えて私の中では浮いてしまった(比喩であり、新劇の役者さんをどうこう言いたいわけではありません)。言葉を換えれば、納谷が独り相撲を取っている感じ。
 やはり拮抗し、また均衡が取れての二人芝居ではなかろうか。個人的な好みで言えば、端正な方での拮抗、均衡だ。そうした“正統派”的演出のものも見てみたい。
 楽日24日(日)は14・18時開演。
 各回の後に、作者が同じ岸田による20分程度の短編「紙風船」が上演される。15時半ごろはさっぽろ演劇研究室、19時半ごろはイレブン☆ナイン。「命−」とは別料金で500円。
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2013年02月18日

春の夜想曲(ノクターン)〜菖蒲池の団欒〜

 札幌座「春の夜想曲(ノクターン)〜菖蒲池の団欒〜」(作・演出・音楽斎藤歩)を2月17日(日)、18日(月)、札幌・シアターZOOで見た。
 初演の劇評を2008年3月17日と4月3日、再演の劇評を10年3月17日に書いているので、ご参照ください。
 配役はほとんど再演と変わらず、ホテルの従業員は高子未来と山本菜穂のWキャスト。ただ前項に書いた事情により、私が見た両日は高子だった。
 もう何度も見ているし、08年5月23日付にはソウル公演同行ツアー記も書いているが、今回は格別にぐっときた。死と隣り合わせにいながら生きることの意味があらためて問い直されたというべきだろうか。劇中でチェリスト役の土田英順が語る、今回使われたチェロにまつわるエピソードも大きな意味があった。東日本大震災で被災し亡くなられた岩手県大船渡市の女性の遺品だとのことである。
 それにしても歩の作品は何度見ても新鮮であり、一方でまた厚みを増す、深みを増すというのはどうしてなのだろうか。見る側の私自身が年齢を重ねていることは確かにあるだろうが…不思議な感慨なのだ。ほかにあまたあるカンパニーの作品を見ても湧かない思いが、歩のほとんどの作品には内包されている感じがする。
 ほんとうは早くに見て感想を書き、ご興味を抱かれた方にも見ていただきたかったが…それがかなわなかった。残念であり反省だ。
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ヘリクツイレブン

 お久しぶりです。この間、けっこうな数の方々がブログを閲覧していただいていたようですが、更新できませんでした。というのは、いっさい芝居を見られなかったから(中には、私の健康を心配してくださった方もおられるかもしれません。今回は健康上の理由ではないので、大丈夫です。ご心配をおかけしてすみません)。2月2日(土)に千年王國「狼王ロボ」を見てからというもの、その後はもともと仕事が開演時間に被っていたり、夕刊の後の残業が長引いて観劇予定が狂ったりして、一本も見られませんでした。札幌演劇シーズンはロングランだからと高をくくっていましたが、見られない時には本当に見られないものなんですね。というわけで2週間ぶりの更新です。
 yhs「ヘリクツイレブン」(脚本・演出南参)を2月16日(土)、札幌・コンカリーニョで見た。
 初演の劇評を2011年7月3日に書いているので、ご参照ください。
 初演から大幅にプレイヤーが変わった、と思う(yhsは役者をプレイヤーというので)。客演も多い。それにしても今回、青木玖璃子が演じた、時間に厳格な不気味な女性の役柄は初演にはなかった気がするが、どうだったろう(南参に確認し忘れ)。
 あと見ていて、この芝居のヘリクツは名作映画・舞台である「十二人の怒れる男」(原作レジナルド・ローズ)を下敷きにしているのではないかと、はたと思った。それほどに構造がしっかりしていて、面白い。それまでヘリクツをこねていた役場職員が次々に折れていく流れもうまくできている。
 ラストにプレイヤー2人がサッカーのリフティングを何回できるかの観客参加型“ノトカルチョ”があって、私が見た初日は能登英輔が見事に100回を達成した。にしても、もう1人が9回とは…。ぴたりと当てたら、yhs公演に終身無料招待とのこと。ぜひ初日の結果も参考に予想ください。
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2013年02月03日

狼王ロボ

 劇団千年王國「狼王ロボ」(原作アーネスト・トンプソン・シートン、脚本・演出橋口幸絵)を2月2日(土)、札幌・サンピアザ劇場で見た。2011年初演で、この年の札幌劇場祭大賞と観客賞、さらに第1回サンピアザ劇場神谷演劇賞を受賞。私もシアターホリック「北海道演劇の宝」賞を贈った名作だ。
 初演の劇評を11年11月19日付で書いており、今回は(手抜きというわけではないが)それを生かして書くことにする。
 1893年の米国ニューメキシコ州コランポーは牧場の牛がハイイロオオカミに襲われて困り果てていた。イエロー(櫻井ひろ)、ジャイアント(高久絢斗)、メスのブランカ(堤沙織)を率いるのは、人々に「魔物」と呼ばれて恐れられ、並外れた知性を持つ古狼ロボ(鈴木明倫)。その首には多額の賞金が掛けられ、大勢が銃や毒薬で挑むが、みなロボの知性の前に失敗する。そこで請われたのが博物学者シートン(赤沼政文→今回は彦素由幸)。牧場主(村上水緒)とその妻(榮田佳子)の協力を得ながら、シートンとロボとの命を懸けた壮絶な“知恵比べ”が始まる−。
 狼たちのダンスを交えた動きがスピーディーでダイナミック(鈴木、櫻井は本来ダンサーだが、高久、堤も遜色はない)。台詞は一切なく遠吠えするだけだが、舞台狭しと駆け回り、観客席内に設けられた舞台を含め劇場中を駆け巡り、時に整然と群れる様子を見ているうちに、大自然への畏怖を感じさせる。素晴らしい動き、まさに唐十郎言うところの「特権的肉体」だ。
 彦素、村上、榮田の3者はあらすじで紹介したほかに、それぞれ動物を含め何種もの役を演じて大忙し。その早変わり自体もそうだが、変わるきっかけなども見ていて楽しい。観客がある役になって参加する場面もあって、それは観劇してのお楽しみ。影絵や照明を使った表現の工夫、数々の小道具も気が利いている。
 今回は新たに坂本祐以、石郷麻衣子の2人が動物役(プロングホーン、牛、犬)で加わった。初演で村上ら人間役の3人が演じた動物役の一部を多彩に引き受け、生身の肉体が躍動する。アクションが大幅にスケールアップした。まさに舞台狭しというほどにだ。物語全体の構えも二段も三段も大きくなったように思える。
 よどみなく進む物語の楽しさ、時にかなしみを余すところなく表現し増幅するのが、福井岳郎(チャランゴ、ケーナ)、有本紀(ピアノ)、小山内嵩貴(パーカッション)による民俗楽器の生演奏だ(作曲福井・さとうしほ)。
 小学生以下は無料とのことで、子どもたちが大勢いた。芝居が進むにつれて、その目が輝いていくのがわかった。最後には観客と舞台が混然一体となった。なんとも感動的な演劇空間が誕生した。こんな素晴らしい芝居が演劇初体験なんて、子どもにはたまらないだろうなあ。
 札幌演劇シーズンについては
http://s-e-season.com/
 をご参照ください。
posted by Kato at 18:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする