2010年02月21日

まきの家のヒーロー

 札幌の俳優岩田雄二が代表を務めるLAUGH LAMP(ラフランプ)の第2回公演「まきの家のヒーロー」(作岩田、演出LAUGH LAMP)は2月21日(日)、札幌・cube gardenで見た。
 舞台は北海道。売れないタレントまきのまこと(高橋隆太)が田舎の我が家に帰ってくる。そこには陶芸家だった亡き父春郎(大人=齊藤雅彰、若いころ=岩田)の工房があり、今回、まことが近く撮影の始まるテレビドラマの主要な役に抜擢されるのと引き換えに、そのドラマのロケ撮影場所として提供するためだった。だが、家には、春郎の弟子だったぷーさん(ふるさとたかし)やワタナベ(ツルオカ)、それに春郎の残したという隠し財産を密かに狙っているオダギリ(氏次啓)が息子タカシ(久礼悠介)とともに住み着いていた。そして、春郎の友人だった、近くに住むひょんさん(城島イケル)もひょいひょいとやって来る。
 そこへドラマの監督(弦巻啓太)やAD(かな?)松川(山崎大昇)がロケの下見に来る。またオダギリに金を貸している柄の悪い猿渡(小野優)も取り立てに来る。実は、付近は今まさに台風が来ており、監督らロケ隊と猿渡の車が危うく衝突事故になりそうになったと分かり、ひと騒動持ち上がる。
 まことは亡き父を継ごうともせず、今もうだつの上がらない自らの身の上に焦りを感じつつ、将来がかかったこのドラマが順調にいくかどうかが心配でならない。その一方、自分の実家であるここに居候たちが居座っていることも我慢ならない。そんな折、プロデューサーからの電話で、今回のドラマでもまことはエキストラ同然の役柄であることが知らされ、まことはついにある決意をする…。
 ほかに出演は春郎の妻桂子(堤沙織)、まことの少年時代(久礼が2役)。
 父と息子の確執と和解を描いた典型的な物語ともいえるのだが、語り口がなかなか巧みで最後までじっくりと見せて飽きさせない。最近の若手の作劇には珍しく、これ見よがしのお笑い取りに走らないのも好感が持てた。
 若いころの春郎と桂子、まことの触れ合いを今のまことが思い出す場面や、年取った春郎とひょんさんの「売れない役者まこと」をめぐる交流の場面など、照明(清水洋和)も目立ちこそしないほどに的確で、物語に陰影を与えていた。
 なによりこのLAUGH LAMP、岩田が各役者の意向も聞きつつ演出するらしいが、2009年7月の旗揚げ公演「4年4組へ行こう」といい、作劇の視線が温かで清々しいのがいい。そして齊藤と城島の出演は、これぐらいの年配の芸達者が重要な役柄を割り当てられると、芝居全体の幅と厚みが格段に増すというお手本のようなものだった。とても丁寧に創られた印象で、今後にもいっそう期待したい。
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2010年02月20日

ポストマンたちの長い夜

 札幌の演出家鈴木喜三夫が座長となり2009年3月に発足した演劇集団「座・れら(『れら』はアイヌ語で風の意味)の第2回公演「ポストマンたちの長い夜」(作札幌清田高校演劇部・泉慈恵・加藤裕明、脚本・演出戸塚直人)は2月20日(土)、札幌・サンピアザ劇場で見た。
 泉慈恵(いずみよしえ)の夫君である戸塚によるパンフレットの「ごあいさつ」によると、もともとこの作品は、04年に当時の清田高の生徒と顧問の加藤、泉が創作し、高文連全道演劇発表大会で優秀賞を受賞した作品だという。その泉は愛娘を妊娠していた08年2月21日に子宮破裂で母子ともに急逝した。享年42歳。今回の公演(2日目の21日が三回忌にあたる)は、そうした事情から、戸塚が設定年代を「郵政選挙」直後の05年12月と変更するなど脚色し、追悼の意味を込めたものと思われる。
 チラシなどによると、あらすじは、2005年、クリスマスイヴの夜、「郵政民営化」が、たったひとつの争点だった総選挙から三カ月…。そこは札幌近郊の静かなアパートの一室。新人郵便局員・千春(西島瑛子)の部屋に、仕事を終えた同僚たち(澤口謙、杉本明美、吉田奈穂子)が訪れる。スケジュールにのった民営化、その不安は聖夜の喧騒にも影をおとす。母(榎本玲子)の仕事帰りを待つ隣室の小学生・夏子(藤田亜里沙)。遠く離れた父親にクリスマスカードを出したいと願うが…。出演はほかに竹江維子、仲鉢勇一。
 千春が勤める特定郵便局の局長役の澤口が、脚本設定の世代よりは若干年配気味かなと思えたが、その他の配役はぴったり。内勤とはいえ、郵便局員が果たして師走のしかもクリスマスイブの夜に集うことができるほどプライベートな時間はあるのかなという疑問もあるにはあったが、時代設定とした05年当時、局員誰しもが抱いたであろう「郵政民営化」への不安感も背景に織り込んで、社会的批評の視点も感じさせた。
 夏子がクリスマスカードを出したいという父親は、青森市に住んでいるということしか分からない。そこで局員らが住所を特定するのに一計を案ずるのだが、そうなんだよな、こういう親切なマチの郵便屋さんていたよな、と思い当たった観客も多かったのではないだろうか(今はそうしたことは自然な心の発露ではなく、より「サービス」との観点から行われているのであろうが)。
 市井の人々の小さな善意の物語が、見終えた後、ほんのりと温かい気持ちにさせてくれた芝居。北海道高校演劇の発展のために尽力した若く貴重な存在の喪失を、私は今回初めて知り、本当に惜しいと思った。
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2010年02月19日

谷は眠っていた〜富良野塾の記録

 富良野GROUP「谷は眠っていた〜富良野塾の記録」(作・演出倉本聰)は2月16日(火)、札幌・道新ホールで見た。
 1984年に開塾した倉本主宰の富良野塾がこの4月4日、閉塾するのを前にした、88年初演のレパートリー演目のラストステージ。初期の塾生たちが血と汗と涙を流しながら、力を合わせて荒れ果てた開拓農家跡の谷に丸太小屋の稽古スタジオをつくり上げるまでの様子をドキュメンタリータッチで描く青春グラフィティだ。
 テーマが実体験に基づいた身近なものだけに、環境問題など大テーマを掲げたときに陥りがちな善悪の二元論的な作劇にもならず、通俗的で誰もが共感、感動しやすい物語となっている。生活費を稼ぐための過酷な農作業、眠気に抗いながら受ける夜間の講義、それでもどうにもならない事情から脱落していく塾生、なんとか残って演劇・シナリオ創作を続けようともがき続ける塾生…。夢を追うさまざまな青春の姿は、見る者一人一人の琴線に触れることだろう。
 劇中使われる曲は、歌謡曲やフォークが中心。そのため時に見る側の心の動きが、舞台上の役者たちの動きというより、その曲の方に影響されてしまうということもあるが、全体的にうまくはまっている。
 それから特に丸太を運ぶ時やスタジオを完成させるラストのマイム(指導岡野洋子)、劇中で塾生たちが踊るダンス(指導木下弘美)が独特かつ力強さを感じさせるもので、印象に残った。
 出演は鬼塚孝次、久保隆徳、水津聡、森上千絵ら総勢30人余。
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2010年02月14日

噂、湯カゲン、イイかげん

 NPO法人コンカリーニョの温故知新音楽劇=故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知る音楽劇=「噂、湯カゲン、イイかげん」(作高橋聡、演出斎藤ちず、音楽橋本幸)は2月14日(日)、札幌・コンカリーニョで見た。
 コンカリがある札幌市西区の人や歴史を調べて物語を創作する市民劇で、2005年度から始まり今年で5回目。
 チラシによると、あらすじは、戦争が終わって三年目の夏(昭和二十三年)。誰もが一生懸命に毎日を生きています。琴似のある銭湯でも小学生からおばあちゃんまで、全員が役目を果たしています。でも戦争で男手を失ってしまったので力仕事は大変です。家風呂がないのが当たり前の時代、銭湯は憩いの場であり社交場でした。そこで交わされる噂話は、尾ひれがついてたちまち広がり、余計な不安を運ぶことにもなるのですが、思わぬ幸せを運ぶこともあったのです−。
 風呂屋「波の湯」の脱衣所を舞台に、総勢20人の老若男女が舞台狭しと動き回る楽しい芝居。番台を上手、下手に動かすことで、女湯、男湯を表現するなど、ちょっとした工夫が生きている。
 上演会場も老若男女で満員。市民劇はいま、各地でつくられているが、うまくいったものは本当にそこの地域に住む人たちの生き甲斐になるのだなと納得がいった。来年はどんな内容になるのか、楽しみにしていよう。
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2010年02月12日

プチ・カフカ

 初めて訪れていただいた方、ようこそおいでくださいました。過去に読まれたことがあって、今回の異変に気付き、検索してなんとかここへ辿り着かれた方、ありがとうございます。
 実はこのブログ、いったんすべて消えてしまったんです。
 その時、私はなぜかフランツ・カフカの小説「変身」を思い出していました。ある朝、グレゴール・ザムザが目覚めてみると、自分が巨大な毒虫になっているのに気付いた−。
 それを敷衍するならば、2010年2月6日(土)朝、加藤浩嗣が自分のブログを何気なく開こうとすると、ブログそのものが忽然と消えてなくなっていた−。
 試みに、以前のブログのURLを書いておきます。http://ham-pro.seesaa.net/ です。ね、なくなっているでしょう。
 このブログの劇評はなんの役にも立たない駄文ではありますが、06年2月から4年間、ほそぼそとでも書き続けてきたことを考え、振り返ってみると、いつの間にか自分の存在の一部になっていた気がします。それが突然なくなってしまうと、なんだか自分の存在も、どこにも頼りようがない不安定なものになってしまったかのように思えたのです。
 あわててブログを管理してくれている人に連絡を取って原因を究明してもらったところ、ちょっとした手違いがあって消してしまったとのことでした。オー、マイゴッド!
 でもでも、復活したのです。残っていたのですよ、わが駄文が。この、どこがどうなっているのか皆目わけがわからないデジタル空間のどこかに。
 それで、管理してくれている人がわが駄文を一生懸命捜し出してブログを復活させてくれました。だから以前のブログからの移動、引っ越しではなく、あくまで復活だと思っています。
 いったん消えて、復活して−。心機一転、これからも自分ながらに書き続けていこうと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
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2010年02月02日

ぐるぐるぐる

北海道舞台塾(先進的創造活動の推進)の「ぐるぐるぐる〜その交差する点で〜」(脚本・演出納谷真大、総合監修イナダ)は1月30日(土)、札幌・かでるホールで見た。昨年のリーディング公演「ぐるぐる地獄」に続く、3年計画の2年目だ。
 営業が振るわず、閉店間近の喫茶店「カルフール(フランス語で「交差点」の意味らしい)が舞台。
 そこの店主(武田晋)と、店内で人を占うスピリチュアルカウンセラー(小島達子)、アルバイトの女性(山崎亜莉紗)、アラサーになって人生を見直すためにこの店を買おうとしている女性2人(今井香織、藤谷真由美)、子どものできない産婦人科医(杉野圭志)と先のカウンセリングに通う妻(林千賀子)、それに藤谷(役者名だが)にプロポーズしようとしているボーイフレンドの売れない画家(かとうしゅうや)。この、それぞれに悩みや葛藤を抱えた8人が織りなすシチュエーションコメディー。今井(これも役者名)と産婦人科夫妻は昨年の「ぐるぐる地獄」から引き続いての役柄だ。
 立派なセット、きびきびとした動き、そこそこのお笑いなど、ある程度うまくできていると言えば言えるのだが、昨年のリーディング公演の、出演者が舞台狭しと駆け巡ったダイナミックな躍動感あふれる公演と比べると、正直言って全体的な閉塞感は否めない。見終えた後、なんだかすっきりとしない、つまりはカタルシスが乏しいのだ。なんというか、昨年抱いた懸念が残念ながら当たってしまったようだ(2009年2月21日の項参照)。
 最終年となる来年はいったいどうなるのか。期待を持って見守ることにしよう。
posted by Kato at 20:54| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする