2008年12月31日

2008アワード

 今年もいよいよ終わりである。恒例のアワードの時がやってきた。
 今年の観劇本数は145本。2007年より20本増え、2年ぶりに140本台に乗った。
 マイベストは2本。
 1本目は劇団TPS(札幌)の「春の夜想曲(ノクターン)〜菖蒲池の団欒〜」(作・演出斎藤歩)。これは、何と言っても、客演女優金沢碧(TVドラマ「俺たちの旅」などで有名)の燕尾服姿の凛とした立ち姿、佇まいの美しさに尽きる。もちろん物語としても、叔母と姪との生と死をめぐるやり取りに見応えがあった。
 2本目は劇団イナダ組(札幌)の「Sui Site(スーサイト)〜実体の無い透明な犬と彼女」(作・演出イナダ)。一つの舞台を幾つもの場所に見せる見せ方が実に巧みだった。全体に芝居のトーンとしては暗いが、ラストシーンに現代の閉塞した状況からの旅立ちを滲ませたのも良かった。
 道外カンパニーの道内公演賞は激戦であったが、昨年に引き続き、劇団FICTION(東京)とした。受賞作「しんせかい」(作・演出山下澄人)は、昨年の「石のうら」(同)よりはインパクトに欠けるが、どうやら私もこの劇団の「最下層の世界」の妖しげな魅力に取り込まれつつあるようである。
 そして今回から再演作品を対象に、「殿堂入り」という賞を設けた。これは過去にマイベストになったものも、ならなかったものでも再演としてマイベストに比肩する作品ということである。
 これも2本ある。
 1本目は劇団北芸(釧路)の「棲家」(作太田省吾、演出加藤直樹)。2007年のマイベスト受賞作である。老境の男の夢とも幻ともつかぬ物語を、故中村伸郎へのあて書きながら、加藤が見事に体現していた。
 もう1本は劇団yhs(札幌)の「95(キュー・ゴー)」(脚本・演出南参)。これも実は2005年のマイベスト受賞作である。1995年という、いまではもう遠くなってしまった、だが当事者には忘れることのできない、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件という大災害、大事件を背景に、若者たちの「青春」への挽歌を描き切って見事だった。
 さて2009年はどんな年になるのだろうか。解散・総選挙の見通しもつかぬまま、社会的にも閉塞感が増していくのだろうか。どうか、そうした閉塞状況を打破するような芝居を期待したい。
 来年もよろしくお願いいたします。
posted by Kato at 21:16| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年12月01日

秋のソナチネ

 TPS「秋のソナチネ」(作・演出・音楽斎藤歩)は11月28、30の両日、札幌・シアターZOOで。チェリスト土田英順を客演に迎え、上演時間わずか1時間15分ながら、「ソナタ」よりも小さな形式の音楽、チェロとピアノによる「ソナチネ」の演奏もふんだんに、札幌の「小市民の幸」が点描される佳品だ。
 札幌の、まだ開業して間もないと思われる手打ち蕎麦屋。なぜかピアノが一台置かれている。店主篤哉(佐藤健一)が黙々と蕎麦を打つ傍らで、年配の順(土田)がチェロ、若い謎の女由果子(林千賀子)がピアノで、小さな愛のソナチネを合奏する。
 ここに、たびたび店を手伝いに来る宣子(深澤愛、高子未来のWキャスト)、お調子者の従業員一郎(木村洋次)、男女の客(岡本朋謙、鎌内聡のWキャストと伊佐治友美子、稲垣佳澄、斎藤由衣のトリプルキャスト)が絡み、晩秋から大晦日にかけての人間模様が、淡く、しかし時間の経過とともにくっきりと浮かび上がってくる。
 あえて人間関係のひだを詳細には描かないことで、再見、三見するたびに、物語に発見が生まれ新たな見方ができてくる、つまり「見る側の思いの入り込む余地」が十分にあるというのは、代表作「冬のバイエル」などと同様、斎藤作品に共通するところだ。それは見るたびに、「この二人、どちらが兄か、姉なんだろう」といった、些事ではあるが、物語の骨格をも想像させ、見る側にも創造させる不思議な魅力に満ちている。
 ましてや今回はトリプルキャストに加えWキャストが二組。その組み合わせによって、物語の陰影も、人間関係のあり方も、微妙に違って見えてくる面白さがあるだろう。
 ラスト、従業員一郎の語りは短いが、この愛すべき小品の終幕を飾るにふさわしい切ないエピソードが、静かな余韻を残す。
 斎藤はこの作品でも「秋のソナチネ」という曲を3曲作曲。小品にふさわしい音楽が、心に染み込んでくる。
 上演は12月2日まで。私は残り2ステージも見て、自分の微かな想像力(創造力)を楽しむつもりだ。
posted by Kato at 10:15| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする