2008年11月28日

三雲いおり 一人喜劇

「砂漠にかかる虹 三雲いおり 一人喜劇〜ヘルサイドテラス203号の家族〜」(作・演出・出演三雲いおり)は11月27日、札幌・コンカリーニョで。
 あらすじはチラシによると次のようなものだ。
 断水中のマンション。ひきこもりの息子は、何とか外に出ようと悪戦苦闘している。母は、言葉なくひたすら自分のことだけを考えている。父は、深夜ひっそりと帰り、また独り言をつぶやいている。そして、世界が乾いていく…。
 三人家族のそれぞれの生活状況を通じ、現在の環境問題を奥底に据えて、人間のおかしさ、せつなさを交えた、一人三役の喜劇。俳優、ボードビリアン、クラウン(道化師)、ジャグラーとして活動している三雲いおりの最高に面白い渾身の一人舞台。
 以上。
 だが、ひきこもりの息子(一幕)も、無言でマイムの母(二幕)も、ずぶ濡れで酒に酔って帰宅した父(三幕)も、劇中に曲芸や手品が入っていても、「喜劇」としてはいかがなものかな、はっきり言って面白みに欠けるな、と思って見ていた。
 札幌劇場祭といっても、また「スカ」か、と。なにせ、エントリー芝居20のうち、もう後半戦になっているというのに、私はイレブン☆ナインとSKグループ、青い演劇村(韓国)の3本しか劇評を書いていない。書きたい衝動に従うままに書くという「シアターホリック(演劇病)」の原点にぶち当たってくる芝居、書きたい衝動を起こさせる芝居がないのだ。
 それが、この「一人喜劇」にはまったく虚を突かれた。ラスト、あるカタストロフィ(大惨事)が発生して、この芝居は「不条理演劇」として見事な完結を迎えるのである。「皇居も流されていく…」という言葉がヒント。
 これには驚いた。演劇を見て、久しぶりに鳥肌が立った。なんだこれ、喜劇じゃなくて、素晴らしい不条理演劇として成立しているじゃないかって。
 三雲いおり、この名前を覚えておいて損はないだろう。
 ただ、先にも書いたように「喜劇」としての完成度を言えばいま一つ。曲芸などの技を磨き、笑わせどころのつぼをしっかり捕まえて、さらに芝居自体の勘所を押さえるよう修練していけば、イッセー尾形とはまた別の種類の一人芝居達者になるような気がする。札幌公演は今回初とのことだが、今後も注目していこう。
posted by Kato at 10:41| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2008年11月20日

阿娘別曲

韓国の劇団・青い演劇村の音楽詩劇「阿娘別曲(アランビョルゴク)」(脚本・演出・出演=劇団代表オ・ソンワン)は11月16日、札幌・コンカリーニョで。
 昨年、北海道文化財団と韓国演劇協会光州広域市支会(光州演劇協会)が交流協定を結んだのに由来する公演。
 1500年前の百済時代の物語が原作。森に住む仲睦まじい夫婦と、その妻に王が目を付けたことから起こる(よくありがちな)恋愛悲劇だ。
 と、よくありがちな恋愛悲劇ではあるのだが、5人のコーラス(ギリシャ悲劇のコロスに当たる)の歌と踊りが時に明るくユーモラスで、それにカヤグムなどの伝統楽器の生演奏がついており、単純なお涙頂戴ものには陥っていないのがよい。
 紗幕を通した女性の踊りや王の煩悶なども見応えがあった
posted by Kato at 19:29| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ザッツ・ザット

 札幌の人気劇団SKグループ(すがの公団長)が活動を休止することになった。その休止前最後の作品が「ザッツ・ザット(本来は英語表記)〜これでおしまい〜」(作・演出すがの公)だ。千秋楽の11月15日、札幌・シアターZOOで見た。
 日本の民間企業が紛争地に若者を兵として送り込んでいる、という近未来。この設定に、公演前のぎりぎりの緊張感の中で稽古を進める劇団の主宰者(すがの)、看板女優(小山めぐみ)らの動き、それに劇団主宰者が書く劇中劇が複雑に絡み合って、物語は一筋縄ではなかなか理解できない。
 実はこの芝居、私は11月2日にも見たのだが、その時は、途中休憩10分を挟む約2時間50分の後半部分は寝てしまった。破天荒な物語の筋を追おうとしたのが原因だったろう。そんなこと無理なのだ。
 それで15日は、劇団唐組の芝居を見る時のように、無理に物語を頭で理解しようとせず、ただ劇空間の流れに身を任せようと思って見た。
 すると、この芝居はこの芝居なりに、強力な「演劇の力」を持っていることが印象深かったのだ。刀を手に手に劇場狭しと立ち回る役者たち。唐十郎の言葉を借りれば「特権的肉体」の躍動とも言うべきか。
 物語はあちらへ行ったりこちらへ行ったり、劇中劇が挟まれたり、実際に休止するSKGを彷彿とさせる部分があったりで、正直あんまりよく分からない。でも、確かに、ぐいぐいとどこかしらに向かって進む、あるいは見る側を引っ張ってゆく「演劇の力」を感じたのだ。
 ハム(すがのの愛称)よ、村上春樹の「風の歌を聴け」の中の言葉を引いてはなむけとしよう。また劇場で会う日まで。
 ゆっくり休め、そしてたっぷり水を飲め。


 「ザッツ・ザット」は「That\x81\xC2s That」。うまくブログに出たら幸い。
posted by Kato at 18:57| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

雁野博士の憂鬱

 シアター・ラグ・203「雁野(かりの)博士の憂鬱」(作・演出村松幹男)は11月9日、札幌・ラグリグラ劇場で。
 生物学者雁野博士(村松)は助手であった妻(斉藤わこ)を十数年前に亡くし、今は独り身。だが3人の秘書(湯沢美寿々、田中玲枝、田村一樹)を抱え多忙な日々を送っていた。そんな博士だが、心は今や現世での理想も見失い、憂鬱の状態。
 場面は変わって、若い雁野博士(平井伸之)がまだ若い助手(吉田志帆)と結婚する前のフィールドワーク。幻の湖を発見した博士たちの前に山賊(柳川友希、藤原博之、高谷友美)が現れる。
 両者がやいのやいのしているところに、今度は年を取った博士(村松)と助手(斉藤)が出現。時空を超えた人生への対話が繰り広げられる。
 村松お得意のパラレルワールドだ。狭い劇場を逆手に取って、広く大きく見せるパントマイムによる冒険譚。雁野博士の人生観照の哲学的な言葉も、それなりに重みを持って見る人に迫ってくる。
 とはいえ、何もかも忘れて、身を委ねることで面白みの増す芝居だろう。見終えた後には、自分の生き方が少しだけ前向きになっているような、人生肯定の良い気分がした。
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2008年11月03日

サイレンとサイレント

今年も札幌劇場祭が始まった。札幌市内八つの劇場で約40の芝居やオペラが上演される(もちろん、このほかの場所でも劇場祭ではなく上演される芝居もある)。12月初旬まで、このブログに書く芝居も、ほとんどが劇場祭のものになるだろう。
 その一つめは、コンカリーニョで11月1日に見たイレブン☆ナインの「サイレンとサイレント〜似て非なるモノ〜」(作・演出納谷真大)。
 このイレブン☆ナイン、もとは富良野塾OBによる演劇ユニットだったが、諸事情により今回から札幌に拠点を移し、納谷中心のユニットとして再出発したとのこと。
 今回の演目は、自殺の名所の森にある、前科者ばかりが働く廃棄物処分工場の、ある事情を抱えたノグチが病で亡くなるまでの1年間の物語。ここに、森の湖へ自殺しに来たリカコ(今井香織)や工場の賄い婦キミコ(小島達子)、その娘で聾唖者のサイレント(静子、佐藤紫衣那)、自殺志願者のAクン(江田由紀浩)らが絡む。
 これまでの軽妙なコメディーとはひと味もふた味も違う作劇だ。
 ただ、私には、納谷の富良野塾OBの先輩山下澄人が主宰、作・演出、出演した劇団FICTION(東京)が9月に札幌公演した「しんせかい」との状況設定や物語のかぶりがどうにも気になってしまった。
 しかも「しんせかい」が比較的乾いた表現であったのに対し、「サイレンとサイレント」はベタベタ。私はベタは苦手だし、ベタベタだともうお手上げ、降参だ。それが今回のような一途な「人間賛歌」などだと、もう謝りたくなる。
 今回は、小悪魔的な魅力ピカイチの今井に頼って、何とか家路についたのだった。
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95

昨年10周年を迎えた中堅劇団yhsの「95(キュー・ゴー)」(脚本・演出南参)は10月18日、ことにパトスで。
 この内容については、すでに数項目前に推薦文を紹介しているので省略する。
 ただ、初演と違う配役の中で、(自分の主宰する劇団同様に)最初から最後まで全力疾走でいかれたらちょっと困るかも、と思っていた谷口健太郎が、南参演出によるものか、抑え気味の演技ゆえに心の闇をも感じさせたのが良かった。
 同じく今回初出演の柴田智之、小林エレキも、それぞれ独特の個性が発揮されており、適役だった。
 芝居全体の印象は、初演時にはもっと笑って見たような記憶があるのだが、今回はとてもシリアスな受け止め方をしていて、自分でも驚くほどだった。そして完成度は高く、今回も心に残る一作となった。
 上演後の南参と私のアフタートークは、南参の話の引き出し方がうまく、見ていた妻は「あの人、頭が切れるね」と感想を話していた。
posted by Kato at 20:23| Comment(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする