2012年05月26日

学生ダイアリー

 劇団アトリエ「学生ダイアリー」(作・演出小佐部明広)を5月26日(土)、札幌・シアターZOOで見た。
 2015年5月、札幌のとある大学。屋内集会所のようなところに、大学4年の学生たちが入れ代わり立ち代わり来て、時間を潰したり友人と話したり。イベントサークル「寿」所属なのは東京出身の植村望(阿部星来)、よからぬバイトをしている大橋実里(玉置陽香)、ミュージシャン志望の篠原幸恵(佐藤愛梨)、写真部なのは望の恋人で就職活動に忙しい蔵元優太(小山佳祐)、就活はしていない重野誠(有田哲)と柳田卓哉(ビルタテル)だ。「寿」の先輩で卒業留年中、「日本を変えなきゃ」と大志だけは抱いている谷川信平(田村貴大)が、中国人留学生で卒業生、故国での結婚も間近な郭暁偉(井上嵩之)を連れて来た。誰かと会うらしい。実は優太は実里と高校時代の友人。幸恵とは以前付き合っていたらしい。国外では北朝鮮の動向が怪しく、北海道に向けてミサイルを飛ばす、なんていう噂も。日本も戦争が間近なのか、大学構内ではそれに反対するデモが行われている−。
 夢も希望も、確かな人生設計も持てない時代。何気ない台詞、動作から、若者たちの閉塞感が伝わってくる(まあ、世界的な閉塞感は私たち大人もそうなんだけどね)。「死」さえさしたる恐怖ではない。というより、恐怖でなく、むしろある意味、憧れのように思ってしまうほどに、現実に絶望しきっている。いや絶望さえし得ないほどにかなしいのか。ただ「無」なのか。
 設定は2015年だが、今のことを描いていると言って差し支えないだろう。小佐部は学生たちを描きながら、現代日本社会に漂う空気感を微妙なところまですくい取ってみせた。見終えた後、さまざま考えさせられ、いろいろと感じさせられた。
 全体として、私はなぜだか「弘前劇場」(青森)が醸す雰囲気と同様の印象を受けた。語り口とか演出の手付きとかからだろうか。
 誰が誰に発信したのか明かされない携帯電話のメールがひっきりなしに送受信され、芝居全体の不穏な空気感を高めている。小佐部自身がパンフレットで書いているように、見終えて全然爽快気分にはならない作品だが、現代日本社会を巧みに反映していることは確かな佳作だ。
 26日は19時開演も。楽日27日(日)は13時・17時開演。
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2012年05月04日

授業(風蝕異人街版)

 実験演劇集団「風蝕異人街」による、サミュエル・ベケットと並ぶ不条理演劇の大家ウジェーヌ・イヨネスコ作「授業」(演出こしばきこう)を4月29日、札幌・アトリエ阿呆船で見た。
 教授(李ゆうか)の自宅に、全博士号取得が目標の女生徒(三木美智代)がやって来る。授業は「『1+1』は?」などという、はた目にも馬鹿馬鹿しい算術から始まるが、教授宅の女中(平澤朋美)は気が気でない。なぜなら、算術から始めてやがて言語学に到る授業の果てには、決まってある出来事が起こってしまうからだ−。出演はほかに、もう一人の女生徒役に丹羽希恵。
 この名作を見たのはたしか5回目だ。東京・渋谷の今はないジャンジャンで、小樽出身の名優・故中村伸郎の超ロングランを継いだ故・仲谷昇版を皮切りに、札幌・シアターZOOで柄本明版(いずれも教授役)、2007年10月には札幌・コンカリーニョで、WATER33-39版と韓国・チョヨン劇場版の日韓競作(07年10月7日付参照)。
 数少ない観賞歴ながらに思うのは、「授業」やベケット作「ゴドーを待ちながら」に代表される不条理演劇は、物語の筋や構造がさほど難しくはない、むしろ単純化されているがために(それは日常生活における不条理性を感じさせるために、概してそうなのだろうか)、演出家の個性や創意工夫がいっそう試されるのではないか、ということだ。WATER33-39版で清水友陽が採用した、女中がストップウオッチを持って時間を計っているという演出が印象深い。
 さて風蝕版。これも女中の立ち居振る舞いに特徴があった。教授と女生徒にこれから起こることをすべて知っていて、なすがままに、いや多少は抗おうとするのだが、結局は諦めてなすがままにしている感じ。「ほらまた、やっぱり。先生ったら」って、台詞が聞こえてきそうだ。そこに日本の歌謡曲なんかがバックに流れて、“異化効果”を出している。平澤のコメディエンヌとしての面白さがいかんなく発揮されていた。
 その分、李と三木のやりとりは生真面目さが浮き彫りになり、やがて狂気というものが際立つ。ラスト近くの李と三木の“たゆたい”はなかなかの見せ場であった。
 11日(金)〜13日(日)には東京で神楽坂die pratzeの「授業」フェスティバルに参加する。健闘を期待する。
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2012年04月01日

「札幌座」座友の記事で一部変更

 前々項の「TPS、4月から『札幌座』に」の原稿中、「座友に松本修、坂口芳貞、滝沢修、山野久治の4人が名を連ねた。」の部分を「座友に松本修、坂口芳貞の2人が名を連ねた。」と変更します。
 きょう改名した札幌座・平田修二チーフプロデューサーから、私に事前送付した資料は一つ古い段階のもので、その後、道内在住の滝沢修、山野久治両氏についてはその都度、関係性を考えることに変更したと連絡をいただいたためです。まあ両氏ともTPS以前からの古く長い付き合いであることから、座友には名前を連ねなくても観客が見聞きすることはあるでしょう。
 ちなみに前々項で詳しくはしなかった東京在住の2人の座友の紹介を少し。
 松本修氏は札幌出身(余談だが、ご母堂はたしか札幌南高で、作家渡辺淳一氏と同級生)。文学座を経て演劇集団MODE主宰の演出家で、たまに役者も。1996年〜1998年、北海道演劇財団常任演出家。いまの斎藤歩が役者や劇作家・演出家として八面六臂の活躍をしているのも、平田氏が松本氏に引き合わせたことが大きい。フランツ・カフカの小説の舞台化などで各種演劇賞受賞の常連だ。
 坂口芳貞氏は北大出身で、文学座座員。松本氏同様、TPSの初期から関わっている重鎮。斎藤歩演出のTPS「ワーニャ伯父さん」(作チェーホフ)にも出演した。顔は知る人ぞ知る、かもしれないが、声優としてさまざまな外国人俳優の役をやっているので、「この声は聞いたことがある」ってことが絶対にあるだろう、お耳の恋人。
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2012年03月31日

修学旅行

 札幌厚別高校演劇部「修学旅行」(作畑澤聖悟、潤色戸塚直人、演出曾根田愛)を3月31日(土)、札幌・サンピアザ劇場で見た。良い芝居だった。
 劇団渡辺源四郎商店(青森)店主の畑澤が青森中央高校演劇部顧問として作・演出し、2005年の全国高校演劇発表大会で最優秀賞を受賞した名作。私は09年に北海道中学生演劇発表大会で十勝管内清水町立清水中学校全校生徒32人の劇団クリオネが上演し、最優秀賞を受賞して以来の観劇だ(その時は審査員として最優秀賞に推した)。
 四泊五日・沖縄への修学旅行の三泊目。女子高生5人が起こした小さくて大きくて小さな戦争。みんなでもりあがりたかっただけなのにどうして? 苦しいけど、楽しい。けど苦しい。私にとって平和って何?−。
 戯曲が素晴らしいのを差し引いても、良い出来栄えだった。なによりも私流に言えば、いかにも「演技してます」といういわゆる“高校演劇臭”が感じられず、出演者がみな舞台上で伸びやかに生き生きとしていたのが良い。配役もぴったりだった。
 芝居はラスト、5人が順々に自分の知る国の名前を挙げていく場面で終わる。たしか、最後にはイラクやアフガニスタン、北朝鮮などが挙げられる元々の戯曲では書かれていない、現在の紛争国としてアメリカ合衆国と日本が挙げられた。日本−。そうだ。いまこの国では、原発依存で行くか脱原発で行くかでも、国民の中に心の“紛争”が勃発している。名作戯曲は緻密に構成されているにもかかわらず、一方で懐が広い。だから、こうした潤色も可能なのだろう。痛いところを的確に突いた潤色だった。
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2012年03月30日

TPS、4月から「札幌座」に

 「財団法人北海道演劇財団主宰劇団TPS(シアタープロジェクトさっぽろ)」が4月から、機構改革と名称変更で「公益財団法人 北海道演劇財団付属 札幌座」(略称・札幌座)になる。
 チーフプロデューサー平田修二、チーフディレクター斎藤歩、また俳優・スタッフ、制作はTPSからそのまま移行し、座員に。座友に松本修、坂口芳貞、滝沢修、山野久治の4人が名を連ねた。一番大きく変わるのは、新たにディレクターとして、清水友陽(WATER33-39)、すがの公(ハムプロジェクト)、弦巻啓太(弦巻楽団)、橋口幸絵(千年王國)の4人を迎えること(4人がそれぞれ主宰するカンパニーでの代表としての立場はそのまま変わらず)。
 財団によると@札幌を本拠地として、プロの演劇活動を希望する人の受け皿を目指すAすでに他劇団に所属している場合、希望があれば所属し続けてもらうB新たな演劇人の参加をもって、創造力の強化を図り、「札幌演劇シーズン」の長期公演を可能にする−のが狙い。
 ここで背景を私なりに解釈、解説すると、これまでTPSは東京でも忙しく活躍する斎藤歩のスケジュールに合わせ、彼におんぶにだっこの形で作品作りをしてきた面が強かったが、札幌座では作品創造を新たに加わる4演出家にも分散して担わせることで新たな突破口にしようとの試みだ。
 平田チーフプロデューサーに以前聞いたところでは、役者陣も自分のカンパニーに在籍したまま、札幌座に客演できるとのことで−それはTPSである今までもけっこう行われてきたが−、今後はそうした客演陣も増えていくことになるのではないか(その後、方針が変わったかどうかは定かではないが)。
 それにしてもの「札幌座」。正直、私にはまだしっくりこない。文学座、俳優座とかは昔からあるし、ある演目を上演する際の出演者らの構成を座組と言うのは知っているけれど。21世紀になって、あえての「座」。時間が経てば慣れるもんでしょうかねえ。
posted by Kato at 19:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 劇評 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする